hamaokaのDT日誌

DTラジオパーソナリティhamaokaが気付いたこと、考えたことを書いて行きます。主にビジネスよりの内容になると思います。

ユダヤ人の頭(イディシェ・コップ)③

これまで、ユダヤ人とユダヤ教の歴史について説明してきた。おさらいも兼ねて、下記に示す。

ユダヤ人の歴史は迫害の歴史
ユダヤ教の特徴は下記の4つ
    A. 論理的、かつ解釈が必要
    B. 最後はハッピーエンド
    C. 非中央集権的
    D. 寄付の重要性

では、ようやく
ユダヤ人に成功者が多い秘密』について述べていきたいと思う。

ユダヤ人は度重なる迫害により、土地などの財産を持つことが出来なかった。
例えて言うなら、迫害の度にドラクエでいう初期状態(装備がひのきの棒、布の服、所持金0ゴールド)に戻されてしまうようなものだ。

そのような裸一貫の状態に度々させられてしまうユダヤ人にとって、武器となるものは、己の頭脳のみだった。

これがタイトルになっているユダヤ人の(イディシェ)頭(コップ)だ。

イディシェ・コップはユダヤ人がこれまでサバイバルしてきた考え方であり、ユダヤ人の4000年の知恵とユダヤ教のエッセンスが込められている。

とはいうものの、イディシェ・コップはそんな大仰なものではなく、知ってみれば、ある意味当たり前のことと思うかもしれない。

イディシェ・コップにはいくつもの要素があり、どんなものがあるか、ユダヤ教の特徴も含め、大きな時間軸に沿って説明していきたい。

まず、迫害によって初期状態になったユダヤ人は、そこで絶望して世捨て人にはならず、ユダヤ教の思想である『最後はハッピーエンド』(ユダヤ教の特徴B)がやって来ると考える。

そこで、ユダヤ人は『ハッピーエンドが来るまで、大変だけどなんとか生き延びよう』と考える。

そして裸一貫からスタートになるが、金なし、コネなしの状態である。(この金がないことに加え、コネがない状態、いわゆる行く先々で『マイノリティ』であるということは、イディシェ・コップに大きな影響を与えている)

ここからいかにサバイバルをしていくかがユダヤ人のスタート地点であり、その中で産まれていったのがイディシェ・コップである。以下でその要素を述べて行きたい。

①論理と想像力を駆使する
これはユダヤ教の特徴のA(論理的、かつ解釈が必要)に基づいている。
どういうことかというと、ユダヤ教の開祖アブラムが、その論理的思考によって神を見出したように、世の中を俯瞰し、批評的に捉えることだ。ただしポイントとして、論理的なだけではただの理想になってしまうため、現実(事実)と関連付けながら考えなければ意味がない。この現実と関連付けるということが、いわゆる想像力を使うということである。(アブラムが、太陽と月は交互に現れるという現実に基づき思考したように)

②チャンスをつかむ
裸一貫からサバイバルをしなければいけないことが多かったユダヤ人が生き残るには、とにかくやってきたチャンスを捕まえることが重要だった。

損切りをする
もし取り組んでいることが上手くいかず、損を垂れ流すだけの状態になってしまったら、ためらうことなく中止することが必要だった。

『最後はハッピーエンド』からも分かるように、あくまで生き延びることが大切であるため、途中で力尽きてしまったら元も子もない。
一度状況をリセットし、別の取り組みを考える。

④他人の考えに敏感
ユダヤ人は長きに渡りマイノリティであり虐げられることが多かったため、その時々の権力者(マジョリティ)のさじ加減一つで、生命の危機に瀕してしまうことが珍しくなかった。

そのため周囲(他人)が何を考えているかを推し量ることは、自らの生命を守ることに直結していた。
この結果、他の文化に溶け込むことができ、マイノリティながらも様々な地域で生き延びることができた。

⑤ユーモアを大事にする
これも度重なる迫害の歴史が大きく影響している。つまり、あまりに無理ゲー過ぎる状況に追い込まれることが多く、もはや笑うしかなかったということだ。
笑いは心に余裕をもたらし、絶望的な状況から脱するアイデアを生み出す源泉となる。

⑥非排他的ネットワークの形成
これはユダヤ教の特徴C(非中央集権的)が大きく影響している。
ユダヤ人自体が各地域へ離散してしまっているということもあり、ユダヤ人がいれば自然とマイノリティ同士助け合い、一緒に生き延びようという思考を共有していた。
非排他的というのは、閉じたネットワークではなく、開かれたネットワークである。
排他的ネットワークは自分たちがマジョリティの時は良いが、大きな環境変化等で万が一マジョリティでなくなった時には脆弱なものになってしまう。
長期的に見れば閉じた排他的ネットワークよりも、開かれた非排他的ネットワークの方が、生き延びるという点に関して言えば好都合である。

⑦寄付をする
これはユダヤ教の特徴D(寄付の重要性)が大きく影響している。ここで言う寄付というのは『お金を施す』という限定的な意味ではなく、広く『社会正義を成す』ことを意味する。
この社会正義というのは、お金を寄付することも含まれるし、人権団体を立ち上げて活動することも含まれる。
つまり、自分の出来る範囲のことをして、弱きを助けるということだ。

ジョージ・ソロスも投資によって莫大な財産を築いたが、その財産で慈善のための財団を設立し、毎年500〜600億円の資本を慈善のために投下している。

日本の諺でも『情けは人の為ならず』というが、人に施しをすることが、長期的に見ると、自分にもその恩恵が返ってきて、結果として生き長らえることに繋がっていく。

⑧子供を教育してマイノリティから抜け出す
ユダヤ人は子供の教育に非常に熱心だ。前々回(ユダヤ人の頭①)でも書いたが、ノーベル賞受賞者の2割強がユダヤ人である。
このことは、本人の資質や学校教育も当然関係あると思うが、家庭教育の影響も無視できないだろう。

現に、ノーベル賞物理学賞受賞者であるリチャード・ファインマンも父親から多大な影響を受けたと発言している。彼の父は、必ずしも金銭的に成功していたわけではないが、子供の教育に関しては成功したといえる。
ユダヤ人の子供の教育の特徴を一言でいうと『学ぶ楽しさを教える』だ。

ユダヤ教ではかつて子供が初めて文字を読めるようになった時、同時にスプーン一杯の蜂蜜を与えていた。これは子供に『学ぶことはスウィート(甘い・楽しい)ことだ』というとを教えるためであった。

この様に育てられた子供はどうなるか。アメリカを例にとってみると、アメリカのユダヤ人の56%が大学を卒業し、25%が大学院を卒業しており、全米の平均を大きく上回っている(2000ー2001年調査、大学、大学院卒業の全米平均はそれぞれ、29%、6%)。

ちなみに、アメリカのユダヤ人はもともと移民であり、その大半は東欧(主にオーストリアハンガリー[オーストラリア、ハンガリー辺りは当時ガリツィア地域と呼ばれていた]、ロシア)から19世紀後半に移民を開始している。

それから3、40年かけて、約200万人のユダヤ人がアメリカに移民としてやってきた。東欧からアメリカへのユダヤ人の移民は、全員が極貧層であり50ドル以上の現金を持っていたのは全体の約7%だった。

何が言いたいかというと、現在の高等教育を受けているアメリカのユダヤ人の数世代前は、ほとんど裸一貫であり、そんな状態でも、子供の教育に力を入れていたからこそ、現在のアメリカのユダヤ人の教育レベルが実現できたということだ

ここで、まとめとしてもう一度、ストーリー的にイディシェ・コップを説明したい。

1. ユダヤ人への迫害により無理ゲー(金なし、コネなしのマイノリティ)がスタート

2. 余りに過酷すぎて、もはや笑うしかない(⑤ユーモアを大事にする)

3. しかし、最後はハッピーエンドが来るはずなので、なんとか生き延びよう

4. サバイバルスタート、ただし持てる武器は己の頭のみ

5. イディシェ・コップを駆使(①論理と想像力を駆使する、②チャンスをつかむ、③損切りをする、④他人の考えに敏感、⑥非排他的ネットワークの形成)

6. 無理ゲー状態からなんとか脱出

7. かつての自分の様な辛い目にあっている人(ユダヤ人、ユダヤ人以外も)に寄付をしよう(⑦寄付をする)

8. 当然自分の子供には、しっかりと教育を施し、かつての自分が置かれていたマイノリティ状態(金なし、コネなし)から抜け出させよう(子供を教育しマイノリティから抜け出す)

9. 何世代にも渡り、長期安定的な生存状態を確保

以上、イディシェ・コップの要素を長々と書いてきた。始めにアナウンスした通り、目新しい要素はないと思う。しかし、だからこそある意味、普遍的な生き延びる知恵と言えるのではないだろうか。

最後に、今回のテーマである『なぜユダヤ人に成功者が多いのか?何か秘密があるんじゃなかろうか?』という問いに答えたい。

答え
ユダヤ人の成功の秘密など、実は何もなかった。敢えて言うなら、頭に汗をかき、仲間を作り、ユーモアを大事にし、弱気を助け、子供をしっかりと育てるというイディシェ・コップ、そしてこのイディシェコップを次の世代に伝承することである』